
フォワーダーを始めようとした瞬間から、制度の壁は始まっている
国際物流会社を立ち上げようと思ったとき、最初に調べるのが「貨物利用運送事業の許可」です。インターネットで検索すると、第一種・第二種という言葉が出てきます。さらに調べると、NVOCC、House B/L、IATA、KSRAという言葉が出てきます。それぞれを個別に調べても、どれが自分に必要で、どれが不要なのか、判断がつかないまま時間だけが過ぎていく。この状況に陥っている会社が少なくありません。
問題は情報の量ではありません。制度の全体像が見えていないことです。
貨物利用運送事業法を読めば第一種と第二種の違いは分かります。しかし、国際物流の実務では、法律だけでは説明できない民間制度や航空保安制度が法律の上に積み重なっています。この積み重なりを理解しないまま許可の申請だけを進めると、許可を取得した後で「思っていた事業ができない」という事態に直面します。
最初に確認するのは許可の種類ではありません。その会社が実際に何をしようとしているのか、誰と契約し、どの責任を負おうとしているのかです。この問いに答えられない段階で許可の申請を進めても、許可はゴールにはなりません。
本記事では、貨物利用運送事業の基本から、外航海運・NVOCC・House B/L・独自約款・国際航空・IATA・KSRAまで、制度の全体像を体系的に整理します。各制度の詳細は子記事で解説しますが、この記事では「どの制度がどうつながっているのか」という見取り図を理解することを目的としています。

1.貨物利用運送事業とは何か――「運ばない運送業」という誤解から始まる

まず誤解されやすい点から入ります。
貨物利用運送事業というと、「自社では運ばない会社がやる事業」というイメージを持たれることがあります。しかし、この理解は正確ではありません。
貨物利用運送事業法が定める貨物利用運送事業とは、他の運送事業者の輸送力を利用して荷主の貨物を運送する事業です。自社で運送手段を持つかどうかは、判断の基準になりません。
自社トラックを保有している会社でも、まず運送契約書を確認します。車両ではなく契約を見る方が、その会社が実際に何をしているかが分かるからです。自社便と協力会社便を組み合わせて輸送サービスを提供している場合、その契約形態によっては貨物利用運送事業の登録が必要になる場合があります。「自社トラックがあるから不要」という判断は、根拠になりません。
判断の基準は一つです。他人の運送を利用して荷主との契約を履行し運送責任を負っているかどうか。この点を契約書と実態の両面から確認することが出発点です。
2.第一種と第二種――上下関係ではなく、事業内容の違い

ここが最初の分岐点です。
第一種貨物利用運送事業は登録制、第二種貨物利用運送事業は許可制です。名称から「第二種の方が上位の制度」と誤解されることがありますが、両者に上下関係はありません。対象となる輸送モードと事業形態が異なるため、制度が分かれています。
第一種は、単一の輸送モードを利用した貨物利用運送が対象です。国内トラック輸送を利用した配送サービスが典型例です。
第二種は、幹線輸送(船舶・航空機・鉄道)に集荷・配達を組み合わせた一貫輸送サービスが対象です。国際物流のフォワーダー業務がここに該当します。
「第二種を取りたい」という会社には、必ず「どの船会社、あるいはどの航空会社と取引する予定ですか」と聞きます。この段階でまだ取引先の運送会社が決まっていない会社が少なくありません。許可だけを先に考えて、事業の中身が後回しになっている状態です。
許可の種類は、自分がどの事業を行うかによって決まります。事業の中身を決める前に許可の種類を決めることはできません。
また、実務上注意が必要なのは次の点です。第二種許可を持つ事業者との契約が前提となる取引であっても、相手方の登録・許可の範囲を確認しないまま話が進むことがあります。後から許可区分の不一致が判明すると、取引条件や契約スキームの見直しが必要になる可能性があります。契約書や見積書を見る前に、まず相手方がどの登録・許可を持ち、実際にどの立場で輸送に関与するのかを確認することが先です。
3.第一種が必要になる場面――国内物流の基本として押さえる
第一種貨物利用運送事業の登録が必要になる典型的な場面を整理します。
路線便を利用した国内配送サービスを提供する場合。複数の協力運送会社を組み合わせて配送ネットワークを構築する場合。自社便と協力会社便を混在させて輸送サービスを提供する場合。EC事業者向けに発送代行サービスを提供する場合。
いずれも「自分では最終的に運ばないが、荷主との間で運送契約を結んでいる」という構造が共通しています。この構造が成立している時点で、第一種の登録が必要かどうかを確認することが先決です。
国内物流に軸足を置く会社にとっては、第一種が基本となる制度です。一方、国際物流へ参入する場合は、第一種では足りません。
4.第二種が必要になる場面――フォワーダーが最初にぶつかる壁

フォワーダーを始めると最初に出てくるのが第二種貨物利用運送事業です。
外航コンテナ船を利用した国際輸送サービスを提供する場合。航空会社を利用した国際航空貨物の輸送サービスを提供する場合。輸出入の集荷から配達までを一貫して提供する場合。これらの事業を自社名義で一貫して提供する形を想定するなら、第二種許可の要否を早い段階で確認することが必要です。輸送範囲や契約形態、国内部分への関与によって判断が変わる場合があるため、事業内容を具体的に整理した上で確認することが前提になります。
第二種許可は「国際物流事業を行う法的資格」を与えるものです。許可を取得したからといって、国際物流の実務が自動的に動き出すわけではありません。
「第二種は申請すれば取れる」という感覚で相談に来る会社があります。申請自体は手続きです。しかし問題は、許可を取った後に何が必要かを理解しているかどうかです。外航海運であればNVOCCとしての実務、House B/L、独自約款。国際航空であればIATA、KSRA。これらは許可とは別の制度であり、許可を取得しても自動的に解決しません。許可の取得はあくまでスタートです。
5.外航海運フォワーダーとNVOCC――許可の先にある実務の核心

外航海運で第二種許可を取得した後、フォワーダーが直面するのがNVOCC(Non Vessel Operating Common Carrier)という概念です。
NVOCCとは、自ら船舶を保有しないにもかかわらず、荷主に対して運送責任を負い、自社名義でHouse B/L(独自BL)を発行する事業者のことです。日本語に直訳すると「船舶を運航しない運送人」です。
NVOCCが実務上重要なのは、二つの立場を同時に持つからです。荷主から見れば運送人であり、船会社から見れば荷主です。フォワーダーは荷主との間で運送契約を結びながら、同時に船会社との間でスペース契約を結ぶ。つまり二つの契約の当事者として機能しています。
この構造が理解できていないと、何が起きるか。荷主から「貨物が損傷した」というクレームが来たとき、「船会社の問題です」と言えない場面が生じます。NVOCCは荷主に対して運送責任を負っているからです。船会社との間でどのような契約を結んでいるかとは別に、荷主との間では自分が運送人です。
外航海運フォワーダーの相談では、許可の要件よりも先に、その会社がNVOCCとして動くつもりがあるのかどうか、そしてその責任関係を理解しているかどうかを確認します。House B/Lを発行するということは、荷主に対して運送責任を負うということです。この認識がない状態でHouse B/Lの書式だけを整えても、実務上のリスクは何も減りません。
第二種許可を取得した後に何が必要かを誰も教えてくれない、という声を聞くことがあります。それは「申請手続き」までの説明で終わっていて、「許可を取った後の実務」に踏み込んでいないからです。NVOCCとして動くためには、許可に加えて船会社との契約関係、House B/Lの法的意味、独自約款の整備が必要です。
6.House B/Lと独自約款――書式ではなく責任関係の整理
「House B/Lのひな形が欲しい」という相談を受けることがあります。まず確認するのは書式ではありません。そのB/Lをどのような法的立場で発行するのか、発行した後の責任関係がどうなるのかです。
House B/L(ハウスB/L)は単なる送り状ではありません。貨物の受領証であり、運送契約の証明であり、有価証券としての性質も持つ書類です。フォワーダーがHouse B/Lを発行した時点で、荷主に対して運送責任を負ったことになります。
この責任関係を整理するのが独自約款です。約款とは、利用運送事業者が荷主との契約条件を定めるルールであり、責任範囲・損害賠償・免責事項などを明確にする役割を持ちます。
約款がない状態で取引を続けることの問題は、万一事故や貨物損傷が発生した際に、責任の範囲が曖昧なまま交渉を強いられることです。国際物流では貨物金額が大きく、輸送中のリスクも多様です。約款は、「会社として責任の範囲を説明できる状態にする」ための最低限の整備です。書式の問題ではなく、責任関係の問題です。
7.国際航空貨物は三層体系になっている――ここが外航海運と根本的に違う
国際航空貨物は、外航海運と比べて制度の層が一つ多いです。具体的には、法律・民間制度・航空保安制度という三つの層が重なっています。
第一層は貨物利用運送事業法です。国際航空フォワーダーも第二種許可が必要です。ここは外航海運と同じです。
第二層はIATAによる民間制度です。航空会社との取引を円滑に行うためのルールを定めた民間の業界制度であり、法律とは独立して存在しています。
第三層はKSRAを中心とした航空保安制度です。テロ対策を含む航空保安の観点から設けられた制度であり、法律でも民間制度でもなく、保安規制として機能しています。
この三層を混同すると実務で行き詰まります。「利用運送の許可を取った」「IATAに加盟した」、だから航空貨物を自由に取り扱えるというわけではありません。三つの制度がそれぞれ独立した要件を持っており、いずれか一つが欠けても実務が回らない場面が生じます。外航海運から国際航空に事業を広げようとする会社が、この三層構造を把握しないまま参入しようとするケースがあります。外航海運の感覚で航空に入ると、制度の複雑さに気づくのが遅くなります。

8.IATA公認代理店制度――法律とは別に存在する民間制度の入口

「第二種許可を取得したから、航空会社と取引できる」という理解は正確ではありません。実務では、この段階でつまずくケースが少なくありません。
航空会社と直接取引する形を想定するなら、IATA(International Air Transport Association:国際航空運送協会)による公認代理店制度の要否を早い段階で確認することが必要です。
IATAは世界中の航空会社が加盟する国際的な業界団体です。航空会社との航空貨物取引を円滑に行うためのルールを定めており、IATA公認代理店制度もその一つです。
ここで理解しておくべき重要な点があります。IATA公認代理店制度は貨物利用運送事業法とは全く別の制度です。貨物利用運送事業法は国の法律ですが、IATAは民間の国際的な業界団体が定めた制度です。国の法律上の要件を満たしていても、民間制度の要件を満たしていなければ、航空会社との取引方法に制約が生じる場面があります。
逆のパターンもあります。「IATAの資格を持っているから利用運送の許可は不要」という理解も正確ではありません。二つの制度は目的も根拠も異なります。利用運送事業法は国内で輸送サービスを提供するための法的資格であり、IATAは航空会社との取引関係を構築するための民間資格です。関与形態によって必要な制度の組み合わせは変わりますが、どちらか一方で足りると単純に判断できるものではありません。
国際航空フォワーダーの参入相談では、第二種許可の要件と並行して、IATAの取得要件と現在の状況を確認します。許可とIATAは別々に動く制度ですが、どちらが欠けても参入後に支障が出る可能性があります。この両方を同時に把握しながら進めることが、国際航空参入の基本的な進め方です。
9.KSRAとは何か――IATAとは目的が違う第三の制度

KSRA(Known Shipper Regime Agent)は、航空保安の観点から設けられた制度です。IATAと混同されることがありますが、制度の目的がまったく異なります。
IATAは航空会社との取引ルールです。KSRAは航空保安です。
航空貨物は、海上輸送と比べてテロ対策などの保安管理が重視される分野です。貨物が航空機に搭載されるまでの間に、保安上の確認が複数の段階で求められます。KSRAはその保安制度の中で、信頼できる代理人として認定を受けるための仕組みです。
IATA公認代理店の資格を持っていても、KSRAの要件を満たしていなければ、航空貨物の取り扱いに制約が生じる場面があります。この二つは別の制度です。取得の目的も、申請先も、審査の内容も異なります。
国際航空貨物の参入相談では、第二種許可・IATA・KSRAの三つを並べて現状を確認します。どれが取得済みで、どれが未取得で、どれを並行して進めるべきか。この三つを同時に把握しないと、参入のスケジュールが組み立てられないからです。
国際航空貨物に参入する際には、利用運送事業の許可・IATA・KSRAという三つの制度をそれぞれ独立したものとして理解し、それぞれの要件を個別に確認することが出発点になります。
10.外国法人・外国人が参入する場合――制度の層がさらに一つ増える
近年、外国法人や外国人経営者が日本国内で利用運送事業を始めたいという相談が増えています。
この場合、まず検討が必要なのは事業体制の選択です。日本法人を新たに設立するのか、外国法人の日本支店として事業を行うのか、によって手続きの内容が変わります。日本法人を設立する場合は会社法上の手続きが必要となり、代表者・役員体制をどう組むかによって登記内容も変わります。外国法人の支店形態を選択する場合は、外国会社の登記が必要になります。
次に問題になるのが在留資格です。外国人経営者が日本に常駐して事業を行う場合、在留資格の要件を満たしていることが前提になります。経営・管理ビザの取得要件は、単に会社を設立すれば満たせるものではなく、事務所の確保、事業規模、常勤役員体制など複数の要件が重なっています。
さらに、利用運送事業の許可申請においても、代表者や役員の国籍・居住地によって確認事項が変わる場面があります。国際物流では、日本法人と海外法人との間の契約関係も日常的に発生するため、国内法人のケース以上に、制度全体を俯瞰した事業計画が必要になります。
「利用運送の許可だけ取れば動ける」という前提は、外国法人・外国人が参入する場合には特に成立しません。会社法・在留資格・貨物利用運送事業法を並行して整理することが出発点になります。詳細は別記事で解説します。
まとめ――許可はスタートであり、ゴールではない
貨物利用運送事業は、一つの許可を取れば完結する制度ではありません。
外航海運ではNVOCCの概念・House B/L・独自約款が許可の先に続きます。国際航空では利用運送事業法・IATA・KSRAという三層体系があります。外国法人が参入する場合には会社法や在留資格も関係します。
最初に確認するのは許可の種類ではありません。その会社が実際に何をしようとしているのか、誰と契約し、どの責任を負おうとしているのかです。この問いに答えられない段階で許可の申請を進めても、許可を取った後で行き詰まる可能性があります。
自分がどの事業を行うのかを理解することが先です。許可はその次です。この順番を守るだけで、国際物流参入後に直面する問題の多くは事前に整理できます。
各論の詳細解説はこちら
・第一種貨物利用運送事業とは(登録の要件と手続き)
・第二種貨物利用運送事業とは(許可の要件と審査のポイント)
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